カロリック検査は前庭機能検査のゴールドスタンダードであり、外側半規管を左右個別に検査することができます。検査の目的は、末梢前庭系の左右対称性、各前庭器官の興奮性および抑制性の反応を左右個別に評価することです。外側半規管へのゆっくりとした回転刺激で誘発される眼振を観察します。回転刺激には通常、0.002~0.004Hzの低周波数を使用します。
検査ではまず、外耳道に水や送風を注入して刺激を与えます。その結果、鼓膜、耳小骨、そして外側半規管の内リンパ液が温度変化を受けます。これによって半規管内の内リンパ液が流動し、クプラがたわみ、有毛細胞が刺激されます。温水の場合、クプラは動毛に向かって傾き(=興奮)、冷水の場合、クプラは動毛とは逆方向に傾きます(=抑制)。物理的に半規管は動いていないが、「動いている」と脳は錯覚します。
注水刺激は送風刺激よりも刺激が強いため、各刺激の注入には以下の条件が推奨されています。
灌流 / 灌風開始から約15~30秒後に刺激が始まり、約60~90秒後に刺激のピークを迎えます。

検査結果(正常例):

検査結果(異常例-左側機能低下):

評価項目:
- Unilateral Weakness(UW, %):一側の半規管の機能低下を示す値です。
※日本ではほぼ同義で、「Canal Paresis(CP, %):半規管麻痺」を用います。
- Directional Preponderance(DP, %):方向優位性。眼振方向の優位性を示す値です。
- Fixation Index(FI, %):固視指数。中枢機能の固視抑制を示す値です。
※日本ではFIの逆数「Visual Suppression Index(VS, %):固視抑制指数」を用います。
眼振の向き:
右耳へ注入=右向き眼振
左耳へ注入=左向き眼振
右耳へ注入=左向き眼振
左耳へ注入=右向き眼振
眼振波形は対称軸に対して線対称であり、明確な頂点の位相を持ちます。また、固視灯が点灯したとき、正常な場合には眼振が抑制されます。
異常所見
- 一側前庭機能低下:UW 25%以上の左右非対称性がある場合
- 両側前庭機能低下:両側の反応に対称性のある低下が認められる場合、両側とも平均緩徐相速度(aSPV)が12°/s以下の場合
- 眼振方向の優位性:右向き眼振と左向き眼振の差が30%を超える場合
- 固視抑制指数:50%以上の場合
- Hyperactivity:極端に増強した眼振が出現した場合、耳の解剖学的に異常のない、中枢性の問題が疑われます。
被検者の準備
検査前の被検者への指示
- 検査3時間前の飲食の禁止
- 快適な服装で、アイメイクはできるだけしないこと
- 付き添いの方と来院すること
検査前に耳鏡検査の実施
- 外耳道の湾曲具合
- 中耳病変の有無
- 外耳道内の異物確認
検査手順:
日本では少量注水法(20℃, 5ml, 20秒法)が一般的に実施されていますので、以下にその手順を示します。
冷温交互刺激検査を実施する場合は、以下と同様の手順で温水→冷水の順で行います。そのほうが眼振は増強されます。
- 被検者は安静な状態で仰臥位となり、水平に対して頭部を30°前屈させます。

- ゴーグルを装着し、ゴーグルカバーを取り付けます。
- 自発眼振(正面視)を観察します。
- 右の外耳道に冷水注入し、眼振を記録します。検査中、被検者は常に開眼状態である必要があり、被検者へ質問などするか、被検者自身が200から逆に数えるよう指示します。そうすることで眼振が増強します。
- 回復時間として最低5分は確保します。
- 左の外耳道に冷水注入し、4と同様に指示します。
- 回復時間として最低5分は確保します。
眼振がピークに達したとき、ゴーグル内に自動または手動制御で点灯した固視灯を被検者に固視させます。そのときに眼振が抑制されるか観察します。抑制されない場合は、中枢の問題が示唆されます。